現地実践知(中国)

力蔵レポート⑤ 評価されない時間の乗り越え方

組織に馴染めずとも、道はある

会社というのは、ときに「空気を読むこと」が生き残る条件になります。 でも、僕はその空気にずっと違和感を覚えてきました。

誰も口に出さないことを言ってしまう。 矛盾があれば、顔に出る。

若いころはそれを“正義”だと思っていました。 しかし、年齢を重ねるにつれ、 組織にとって大事なのは「正しい意見」よりも、 「全体の調和を乱さずに進められるかどうか」であることに、気づきます。 そのため、組織にとって“都合の良い人”が評価されることがあるのです。

その環境から脱出したくて、海外にでました。 しかし、中国に来てからも同じでした。 組織は必ずしも「正しい人」を求めているわけではないのです。 現場の真実を突きつけるよりも、 本社の意向を代弁し、場を丸く収め、摩擦なく物事を進める人の方が重宝されます。 そのため、現地の会議でも、「言いやすい意見」が優先され、 正しい提案でも場の空気を乱せば通りません。 合理性よりも「場を壊さないこと」が優先される― それが組織というものの現実だとここでも痛感しました。

しかし、私ははそこで自分に問いました。 「空気に合わせて自分を薄めるか、 それとも自分の軸を失わずに立ち続けるか。」

私が選んだのは後者でした。 日本での現状を打破したくて、海外に出たのです。 多少疎まれても、理解されなくても、 自分が信じた人や可能性を守ること― それが、ここ中国での私の“在り方”になりました。


2. 批判されても信じ続けた「人の可能性」

ある時、一人のスタッフが社内で問題視されました。 「協調性がない」「扱いにくい」―散々な評価で、 社内の空気は、「辞めさせた方がいい」というものでした。

しかし、私には彼の中にあるエネルギーが見えていたのです。 正直で、不器用で、でもまっすぐ。 組織の「正解」に適応できないだけで、その人自身が悪いわけじゃない。

だから、トコトン守ることにしました。 Orbit Crossでの解析結果を参考に、彼の良さを周囲に伝えることにしました。 数か月後、彼は成果を出し始め、評価は一変。 やがて社内で“期待の若手”と呼ばれる存在になったのです。

人は「評価」で変わるのではない。 信じてくれる誰かがいることで変わるのだ。

僕自身も、評価されなかった時期に 「お前のやっていることは、ちゃんと見てるよ」と言ってくれた上司の言葉に救われた。 今はその言葉を、次の世代に渡す番だと思っている、と言ってくれています。


40代で自分自身と向き合いなおす意味

「もう若くない」「今さら変わらない」 そう思って、挑戦を避けていた時期もありました。

けれど、中国でゼロから挑戦することになり、 40代にして初めて、自分と真正面から向き合ったのです。

なぜ空気に合わせず、何者でもない自分に向き合えたのか。

それは、役職も経験も一切通用しない環境だったからに他なりません。 外的プロファイリングが一切通用しないのです。 そのため、「過去の実績」という鎧が意味を持たず、 自分を守る肩書もなく、頼れるのは“今の自分”だけ。

そこで問われたのは、 「何ができるか」ではなく、 「どんな在り方で生きるのか」でした。

逃げ場のない環境が、 私に“空気に合わせる生き方”をやめさせ、 何者でもない自分と対話するきっかけをくれたのだと思います。


「評価されない時間」にこそ、軸は育つ

評価されないとき、人は不安になります。 自分の存在が、誰にも見えていない気がします。 「この努力は意味があるのか」「今いる場所は正しいのか」― そんな問いが何度も胸に浮かびます。

しかし、その困難な時期を振り返れる時になると、はじめて分かるのです。 その時間こそが、わたしの軸を太くしていた。

評価されない時期は、言わば人生の“冬”。 何も起きていないように見えても、 地面の下では根がじわじわと伸び、 見えないところで次の季節の準備が始まっているのです。

人は、評価という光が当たらないときこそ、 自分の声を聴き、自分を深く耕すことができます。 逆に、「評価」されている時は、その「評価」が気になり、世間に迎合しようとするのです。 易経にも「窮すれば変ず、変ずれば通ず」とあります。 行き詰まりは、やがて変化の種となり、 その先に新しい道が開ける。という意味です。

僕はもう、誰かの期待に合わせるために生きるのは辞めました。 代わりに、自分が信じたものに時間をかける生き方を選ぶことにしました。

もし今、あなたが「報われない」「誰にも認められない」と感じているなら、こう伝えたいです。

評価は必ず、遅れてやってくる。 でも、自分の「在り方」は、今この瞬間から選べる。


評価されない時間は、根を伸ばす季節です。 見えないところで、静かに学び、次の自分を静かに育てる時間です。

深く沈んだ分だけ、あとで高く跳べるでしょう。 その跳躍のために、いま地中で根を張っているのだと思えば、 不安も意味を持ちはじめるのではないでしょうか。

力蔵

転職を機に一人中国へ渡り、現地企業の事業運営のサポートや現地法人の経営、中国人スタッフのマネジメントに従事し、黒字化事業へ成長させる。実践を通じた東洋古典活用法の情報発信・勉強会を開催。

https://note.com/riki_zoo

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