現地実践知(中国)

力蔵レポート② 現地と本社の板挟みの現場で見えたもの

「なんでまた、わざわざ中国へ?」

この7年間、何度この質問をされたかわかりません。

中国で現地法人の事業運営を任される―聞こえは立派ですが、実態は日本本社と現地スタッフの間で価値観の板挟みになる毎日。 会議では日本の方針を説き、現場では中国スタッフの不満を受け止める。 一日が終わると、ホテルで天井を見つめながら「今日はちゃんと人の役に立てたのか」と自問する日々でした。

そんな中で現地で強烈に突きつけられたのは、名刺や肩書きでは誰も動かないという現実。 特に若いスタッフはシビアです。

「あなたは何をしてくれる人なのか?」 それが彼らにとって唯一の判断基準でした。


制度よりも“生きた関係性”が組織を動かす

そのため、日本から導入した評価制度や目標管理は、現場で空回り。 「制度を整えれば人が動く」という発想が、逆に現地の人を遠ざけてしまうことも。

ある日、ふと気づきました。 制度は人を信頼しない仕組みかもしれないと。 現地では「信頼できるかどうか」がすべての土台になっていて、 制度はあくまでその関係を補助するフレームに過ぎないと悟りました。


人は「信じた分だけ育つ」

採用したばかりのスタッフが、何度も失敗を繰り返していた時期がありました。 普通に考えれば「不向き」と判断して、切る選択肢もあったかもしれません。

でも、なぜか彼の中に可能性の種を感じたのです。 私が感じた現場の勘を、確認したい。 そこで用いたものが、Orbit Crossのプロファイリングシステムです。 彼の活用法を把握、彼を決して否定せず、環境を整え、チャンスを与え続けた結果、半年後には目を見張る成長を遂げました。

あの時感じた「信じるという行為が人を変える瞬間」は、 今も私の人事観の核になっています。


「正しさ」ではなく「在り方」で人は動く

中国の現場では、契約が守られない、部下が突然辞めるなど、 マネジメント本に載っていない事態が日常的に起こります。

論理で説得しても動かない。 結局のところ人が見ているのは上司の在り方でした。 「この人の言葉は信じていいのか?」 その一点を、驚くほど敏感に感じ取っているのです。


日本人という“フィルター”を外す

トラブルが起きると、「普通はこうするだろう」と日本的感覚がどうしても顔を出してしまいます。 でもその“普通”は、単なる日本の常識にすぎません。 日本でしか通用しない”普通”であり、 逆にこの”普通”に日本人は縛られているのかもしれません。

文化の違いは「間違い」ではなく「前提が違う」だけ。 それに気づいた瞬間、相手の行動原理がクリアに見え、 会話も合意形成も驚くほどスムーズになりました。


「人を活かす」の再定義

中国の現場マネジメントは正解がありません。 毎日がケーススタディで、仮説と修正の繰り返しです。

それでも今、確信しているのは、 人が活かされるのは、制度の完成度ではなく、関係性の本気度で決まるということ。 これは、今の日本の現場にも通じる考えだと思います。

外国人労働者の多い建築現場などでは、安全性を考慮して様々な制度が設定されているでしょう。 しかし、どれほど制度が完璧でも、「親方の関係性の本気度」がなければ事故は防げません。

この「関係性の本気度」とは何か。

その答えを探るために、私は中国古典を学ぶことにしました。 そこには古代から続く、上司と部下、君主と臣下、師と弟子―― 人が人を導き、人に従う関係性をどう築くかという知恵が、 寓話や歴史物語、格言として無数に描かれています。

私が古典を読むのは、単なる趣味ではありません。 現場で人を動かす力の本質、 「人を活かす」とはどういうことかを再定義するための学びです。

力蔵

転職を機に一人中国へ渡り、現地企業の事業運営のサポートや現地法人の経営、中国人スタッフのマネジメントに従事し、黒字化事業へ成長させる。実践を通じた東洋古典活用法の情報発信や勉強会を開催。

https://note.com/riki_zoo

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