感情の奥にある軸を見つめる
1. 「理不尽」な要求。それでも怒らない人が、なぜ強いのか
中国で働いていると、理不尽に出会うことは日常茶飯事です。 突然の方針転換、現地社員からの一方的な離職通告、 本社から現場を無視した指示、そして信頼していた部下の引き抜き…。
最初の頃は、怒りや悔しさ、無力感が押し寄せました。 でも感情をぶつければ関係は壊れ、飲み込めば自分が壊れる。 その狭間で、僕にとって「感情をどう扱うか」が大きなテーマになったのです。
2. “正しさ”では人は動かない
日本で管理職をしていた頃、僕は「正しさ」と「論理」で組織を動かそうとしていました。 報連相のルール、評価制度、マニュアル…。 でも中国の現場では、そうしたものが通じない場面に何度も出会います。
そこで気づいたのは、 ルールを守らせるより、「この人のために動こう」と思わせることの大切さ。
中国では「誰が言うか」が重視されます。 役職よりも、その人の在り方が基準になるのです。 どんなに厳しい状況でも冷静さを失わない上司には、人が自然と集まってきます。 自己主張を強くする中国人を相手に、「冷静さ」を貫くことは、大変でした。 しかし、だからこそ、この「冷静さ」が一番効果的です。 当たり前といえば、当たり前ですが、 火を剋するのは水しかありません。 火に木(頑固さ)で対応しても、火が強くなるだけ。 彼の場合、こういう性格だから、このように対処すべきと、 Intrinsic Profilingで冷静に解析しながら対応します。 リーダーシップとは「正論を言う力」ではなく、 感情の温度を整えて、場に安定をもたらす力だと実感しました。
3. 感情を“抑える”のではなく、“整える”
「怒りを抑えろ」と言うのは簡単ですが、 それは感情を否定することとは違います。
僕は「感情を整える」という言葉を大切にしています。 怒りや悲しみを認めた上で、 それを静かに内側に置いておく―。
僕がよくやるのは“間”を取ること。 必要ならその場で結論を出さず、持ち帰る選択をし、 相手の立場を一度自分の中で演じてみます。 Orbit Crossのプロファイリング解析を参考に、 その人の性格になりきって、その人の立場に立ってみます。 すると、不思議なほど冷静に客観視することができ、 相手の考えが手にとるようにわかるのです。 これは衝突回避ではなく、リーダーとしての軸を守るための技術です。
4. 「この人は、自分を裏切らない」と思わせる存在になる
中国の部下たちが一番見ているのは、 「この上司は一貫しているか」という点です。
怒るべき時には怒ります。 しかし、決して人格は否定しない。 相手の人格を解析することで、どんな人の人格も否定などできません。 相手の人格を尊重する姿勢が保てます。 そして、厳しい状況でも誠実さを失わない。 その積み重ねが、「この人なら信じていい」と思わせる安心感を生みます。
リーダーは常に完璧である必要はありません。 でも「何があっても自分を見失わない」 その姿勢に、人はついてくるのです。 理不尽を突っぱねるのではなく、 理不尽の中に意味を見出す― そこに在り方としてのリーダーシップが現れます。
5. 「在り方」は感情の裏側にこそ現れる
感情は生きている証です。 でもそれに呑まれるか、整えて行動するかで、リーダーの深さが問われます。
中国での数々の理不尽を通じて、 僕はようやく自分の「感情との付き合い方」を学び始めた気がします。 まだ完全ではありませんが、 少しずつ、呑み込まれない強さと、整えて向き合う優しさを 手に入れつつあるのです。
次回は、そんな「在り方」を支えるリーダーの器について、 現地の同僚や部下との関係性を通じて考えてみたいと思います。
力蔵
転職を機に一人中国へ渡り、現地企業の事業運営のサポートや現地法人の経営、中国人スタッフのマネジメントに従事し、黒字化事業へ成長させる。実践を通じた東洋古典活用法の情報発信や勉強会を開催。 https://note.com/riki_zoo